心因性発熱(しんいんせいはつねつ)について、東洋医学と西洋医学の視点から詳しくご説明いたします。それぞれが持つ考え方や治療アプローチの違いを理解することで、より包括的にこの症状を捉えることができます。
心因性発熱とは?
■ 定義
身体に明確な炎症や感染がないにもかかわらず、精神的・心理的なストレスや不安が原因で生じる発熱のことです。通常、37.0~38.5℃程度の微熱が続きます。
【西洋医学の見解】
1. 原因とメカニズム
西洋医学では、心因性発熱は自律神経系の異常な反応として説明されます。
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ストレス → 交感神経の過剰な興奮 → 体温中枢が乱れる → 熱が上がる
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ホルモン(コルチゾール、アドレナリンなど)の影響で体温調整機能に乱れが生じる
2. 主な症状
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微熱(37℃台)
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倦怠感、疲労感
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不安・緊張状態、イライラ
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睡眠障害
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学校や仕事前に発熱しやすい(心因的な場面で発熱)
3. 検査と診断
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血液検査、レントゲン、ウイルス検査などを行っても異常は見つからない
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他の原因(感染症、自己免疫疾患など)を除外した上で、「心因性」と診断される
4. 治療
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ストレス管理:心理カウンセリング、生活指導
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薬物療法:抗不安薬、抗うつ薬、自律神経調整薬(場合により使用)
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十分な休養、睡眠、生活リズムの見直し
【東洋医学の見解】
1. 東洋医学における病因論
東洋医学では、発熱は「邪(じゃ)」が体内に入り、正気(せいき)が乱されることによって起こると考えます。心因性発熱に近い症状は、以下のようなパターンで理解されます。
2. 主な弁証(パターン)
(1)肝気鬱結(かんきうっけつ)
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ストレスや怒りで「肝(かん)」の気が滞る
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症状:微熱、イライラ、胸脇苦満、ため息、女性なら月経不順も
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対応:気の巡りをよくする漢方(例:加味逍遥散)
(2)陰虚内熱(いんきょないねつ)
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体の「陰(体液や血)」が不足し、熱が内側にこもる
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症状:午後や夜間の微熱、寝汗、口の渇き、動悸
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対応:陰を補う漢方(例:知柏地黄丸、六味地黄丸)
(3)心火亢盛(しんかこうせい)
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心の熱が高ぶって精神が不安定になる
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症状:不眠、動悸、焦り、微熱
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対応:心を冷ます漢方(例:黄連解毒湯)
3. 治療法
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鍼灸治療:自律神経の調整を目的に、神門、内関、太衝などを使用
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漢方薬:症状に応じて個別に処方
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生活指導:五行や陰陽に基づいた生活のバランスを整えるアドバイス
両者の違いと補完的な考え方
視点 | 西洋医学 | 東洋医学 |
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原因 | 自律神経の乱れ | 気血水・陰陽の失調 |
治療 | 薬、心理療法 | 漢方、鍼灸、体質改善 |
アプローチ | 原因を「除く」 | 体のバランスを「整える」 |
対象 | 症状の鎮静 | 体質の根本改善 |
✔ 総合的なアプローチが有効
心因性発熱は「心と体」のつながりが強く関わっているため、西洋医学だけでなく、東洋医学の体質改善・気の巡りの調整なども有効です。特に長期的・再発性のケースでは、両方の視点を活かした「統合医療的アプローチ」が推奨されます。
参考文献:
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『東洋医学概論』(医道の日本社)
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『臨床精神医学講座』(中山書店)
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セイリン株式会社・鍼灸治療解説資料
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