東洋医学(特に中医学:伝統中国医学)における、生命のリズムに関するとても興味深い考え方です。「女性は7の倍数、男性は8の倍数で変化する」という理論は、古代中国の医学書『黄帝内経(こうていだいけい)』に記されている「天癸(てんき)・腎気(じんき)」の理論に基づいています。
■ 基本の考え方:腎(じん)の発育サイクル
東洋医学では、「腎(じん)」は生命エネルギー(=精)を蓄える臓腑であり、成長・発育・生殖・老化の根源とされています。
この腎のエネルギー(腎気)は、年齢に応じて一定のサイクルで変化すると考えられており、
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女性は7年ごとに変化
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男性は8年ごとに変化
するとされています。
■ 女性の7の倍数による変化(『黄帝内経』素問・上古天真論より)
年齢 | 身体の変化 |
---|---|
7歳 | 腎気が盛んになり、乳歯が永久歯に変わり、髪が伸びる |
14歳(2×7) | 「天癸(てんき)」という生殖のエネルギーが現れ、初潮が始まる(月経) |
21歳(3×7) | 腎気がさらに充実、女性の身体的成熟が完成(生殖能力が最も高まる) |
28歳(4×7) | 身体・筋肉・骨格が最も充実し、出産の適齢期 |
35歳(5×7) | 肌のハリが衰え始め、身体の老化の兆しが出始める |
42歳(6×7) | 顔にしわ、白髪などが目立ち始め、「陰血(いんけつ)」の減少 |
49歳(7×7) | 「天癸」が枯れ、閉経を迎え、生殖機能が終わる |
👉「天癸」とは、女性の生殖をつかさどる特別な精(エネルギー)のことです。
■ 男性の8の倍数による変化
年齢 | 身体の変化 |
---|---|
8歳 | 腎気が盛んになり、永久歯が生え、髪が伸びる |
16歳(2×8) | 「天癸」が現れ、精通(射精)を迎える |
24歳(3×8) | 筋肉・骨格・生殖能力が完成、身体の成熟がピーク |
32歳(4×8) | 筋骨が強く、活動的で精力・体力の最盛期 |
40歳(5×8) | 腎気が徐々に衰え始める、老化の前段階 |
48歳(6×8) | 髪が抜け始め、白髪が出てくる |
56歳(7×8) | 肝・腎がさらに衰え、精力・筋力の低下が目立つ |
64歳(8×8) | 天癸が枯れ、生殖機能の終わりを迎える |
■ この理論の意味と現代的な解釈
この「7年・8年」理論は、古代中国での観察に基づくリズム理論であり、現代の年齢と完全に一致するわけではありませんが、
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思春期・成熟・老化のリズムを理解する
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更年期や妊娠適齢期を自然のサイクルとして捉える
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心身の変化に対するケアや予防の指針になる
といった面で、今も薬膳・東洋医学・自然療法の世界では重視されています。
では、「天癸(てんき)」「腎気(じんき)」「陰陽五行(いんようごぎょう)」の3つのキーワードを軸にして、東洋医学における「女性は7の倍数、男性は8の倍数で変化する」理論を、より深く解説してまいります。
■ キーワードで紐解く東洋医学の成長サイクル
【1】腎気(じんき):生命力の源
東洋医学では「腎(じん)」は単なる臓器ではなく、成長・発育・老化・生殖をつかさどる「生命エネルギーの根源」と考えられています。このエネルギーのことを「腎気(じんき)」と呼びます。
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腎気が充実すると、髪が伸び、歯が生え、性成熟が進む
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腎気が衰えると、老化が始まり、白髪・しわ・生殖力の低下が見られる
つまり、人生の節目はこの腎気の変化に基づいて起こるのです。
【2】天癸(てんき):生殖を支える神秘のエネルギー
「天癸(てんき)」は、東洋医学において人の体に宿る生殖に必要な精妙なエネルギーで、特に性成熟・月経・排卵・妊娠などに深く関係しています。
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女性では約14歳(7×2)で天癸が発動し、初潮が訪れる
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男性では約16歳(8×2)で天癸が発動し、精通を迎える
この「天癸」が現れるタイミングは、腎気が一定レベルに達したサインでもあります。
また、天癸は腎に蓄えられた「精(せい)」から生まれるため、腎気と天癸は密接に関係しています。
【3】陰陽五行(いんようごぎょう):自然と人間の調和理論
「陰陽五行」は、自然界と人体の関係を体系的にとらえる東洋思想の基本理論です。
🔸陰陽:バランスをとる2つのエネルギー
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陰=冷・静・柔・内(女性的)
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陽=熱・動・剛・外(男性的)
腎は「陰陽の根本」とされ、腎陰(体を潤す)と腎陽(体を温める)の両方のバランスが重要です。
➡️ 年齢とともに腎陰や腎陽が減ると、生殖能力や体力が衰えていくという解釈になります。
🔸五行:木・火・土・金・水の五つのエネルギー
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腎は「水(すい)」に属し、生命の根源として「蔵精(ぞうせい)=精を蓄える」役割を担います。
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水(腎)は木(肝)を生み、火(心)を抑えるなど、他の臓腑とのバランスも大切です。
この五行の流れも、人生の変化をスムーズにするための自然なリズムとされます。
■ 女性7年・男性8年の変化をまとめると…
年齢 | 変化 | 腎気 | 天癸 | 陰陽五行の視点 |
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女14歳 / 男16歳 | 性成熟 | 腎気が充実 | 天癸が発動 | 腎水が満ちて「陰(女性)」または「陽(男性)」が発現 |
女28歳 / 男32歳 | 最盛期 | 腎気がピーク | 妊娠力・精力が最大 | 陰陽のバランスが最も整う時期 |
女49歳 / 男64歳 | 生殖終焉 | 腎気が枯渇 | 天癸が終息 | 水の衰え → 肝・心・脾の機能にも影響 |
■ 現代への応用:自然とともに生きるヒント
この古代のリズム理論は、現代の私たちにも大切なメッセージを伝えています。
✅ 自分の年齢や体の変化を「自然な流れ」として受け入れる
✅ 腎気を守るために、十分な睡眠・食養生・ストレス管理を心がける
✅ 更年期や老化の時期にも、薬膳や漢方で腎を補うことが有効
「老いることは衰えること」ではなく、「変化し、熟すこと」という視点を持つことで、心と体のバランスが取りやすくなりますね🌱
■ まとめ
キーワード | 意味 | 関連 |
---|---|---|
腎気 | 成長・発育・生殖をつかさどるエネルギー | 人生の節目ごとの変化 |
天癸 | 性成熟・月経・妊娠を司る神秘的なエネルギー | 女性14歳・男性16歳頃に発動 |
陰陽五行 | 自然界と人体の関係を表す理論 | 腎は「水」、生命エネルギーの源 |
参考文献:
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『黄帝内経・素問』
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『東洋医学概論』(医道の日本社)
- 『薬膳・漢方の基礎と実践』日本薬膳学会
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『女性のための漢方・薬膳生活』井上加奈子著
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